吸血鬼 THORES柴本トリニティ・ブラッド画集


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吸血鬼


お題  

「諦めろ、お前は俺にはかなわない」

「弱肉強食……という言葉を、知っているか?」

「アンタ・・・人間……じゃ……なかったのか?」

「え・・・あれ、本当なのか? ただの冗談だと思ってた・・・」

「でなければ、誰がウチになどおいてやるものか。ふふ……安心したか?」

「このコトを知っているのは、吸血鬼に『飛び抜けて信頼されているヤツ』だけだ」

「いいのか? そんな大事な秘密、俺なんかに話して。誰かにバラすかもしれないぜ?」

「惑わされるなよ。美しくも妖しい外見……『天性の誘惑者』という異名を持つ、魔物だ」

「そのはずだ。みんな、自分が吸血鬼であるコトを隠すから。君は人間だから、なおさらな」

「まず、簡単な方から回答しよう。私は君を嫌ってはいない。むしろ、それなりに気にいっている」

「問題ない、信じてるから。なにせ、一年や二年の付き合いじゃないからね。君の性格は、それなりに熟知しているつもりだ」

「一一あなたは吸血鬼のような人ですね。十字架も、シルバーブレッドも効かない……高慢で、自意識過剰で、自信家で、嫉妬深く、独占欲の強い、本当に憎たらしい吸血鬼・・・」

「人間を嫌っている理由は、いくつかある。まず、我々のルックスを褒める事。吸血鬼は『寂しさ、悲しみ、苦痛』といった『負の感情』を感じると、妖しさを増す、イヤな種族だ。外見を褒められるのは、吸血鬼にとって侮辱されたのと同じさ」

「それじゃあ、好意に甘えて少し分けてもらうよ……でもその前にもう一度、確認するよ。吸血行為を行うと、私と君の感覚がシンクロする。……本当にいいんだね? たとえば、私が快楽を感じると、君の身体も一一感じさせてしまうコトになるんだよ……?」

「一一そう思うかね。だが、相手はあの『人間』……ああ、失敬。君も人間だったね。吸血鬼は例外なく、みんな見目がいいからね。誘拐して金持ちに売り飛ばす、というのが流行ったんだ。私も……まぁ、その被害者のひとりでね。その狩りを考えたのも実行したのも、人間だ。欲深い種族だからな。大金が手に入り、『商品』でコッソリ性欲処理もできる、楽しいビジネスってワケだ。ふふっ」

「私はこんなにも……こんなにも、あなたの事を想っているのです。それなのに、この私にあなたを・・・あなたを封印しろと、おっしゃるのですか!? イヤです。絶対にしません。断固、お断りします。そんな事をするぐらいなら……・・・一一私を、吸血鬼にして下さい。人でなくなれば、あなたは私を殺さずに済む。私も、あなたのそばにいられる。それ以外は、絶対にききませんからね! いいですね!?」

「我々は非力なヤツが多く、体力も低い。全く鍛えていないのなら、基礎体力は人間の成人女性以下だろう。だが、体力がない代わりに、アタマの回転が早いヤツが多いのでね。するりと逃げ回る。我々を捕まえるまでが、そうとう苦労するようだね。だが、その苦労するという点ですら、人間には楽しいらしい。知恵をしぼって、どうやったら我々を追い込めるか、捕まえられるか、よる遅くまで議論するのだそうだ。凄いんだよ。なにせキズのない綺麗なカオなら、死体ですら高値で取り引きされるのだからね。我々は『寿命が来る』か『銀』を注入されるコトでのみ、命を落とすんだけどね。『銀』の場合、体温はさがらず、腐敗もない。だから、まるで生きた人形扱いさ」


「私のこの力は、君だけのために使うと、誓おう……」

「この私が人間なんぞに協力してやるのだ。感謝しろ」

「どれほどの『飢え』がきても、決して君には手を出さない」

「コウモリには変身できないけど、オオカミにならいつでもなれるよ」

「厳密に言えば、私はダンピール……つまり、人とヴァンパイアの間に生まれた、混血なんだ」

「そうやってくっついてくれンのは嬉しいが、吸血鬼がユーレイを怖がるってぇのは、いかがなモンか」

「うん、『化け物』か……確かにそうだけど、こうして面と向かって言われるのは、さすがにキツいなぁ」

「安心していい、この街はヴァンパイアしかいない。そして一一今日からここが、君と私の家になる。……その、一緒に住む事を承諾してくれたら、だけど」

「なぜ自分に構うのか、と? フン、愚問だな。お前の、この白く美しい、滑らかな肌……恨むなら、俺をここまで惹き付ける、自分の魅力を恨むんだな……」

「俺はヴァンパイアであり、同時に『狩る者』でもある。俺をこんな化け物に変えたヤツを探し出し、始末するのが、旅の目的だ。そしていま、目的がひとつ増えた。一一アンタをオトす。この旅の間に……必ず、な」

「さぁ、パーティーはおひらきだ。じきに夜明けが来る。日の出が来る前に、私は戻らなくては。地下? 棺? 墓地? いや、違うよ。完全に紫外線を遮断する、UVカット対応の宿屋にさ。……なぜそこで笑うのかな」

「すまない……そういう事はできないんだ……。行為によって君が感染し、『人間ではないもの』に、変えてしまうかもしれない……。調べるから、少し時間をくれないか。私も望んでいるから……その、君と結ばれるのを……」

「いかにも不振なヤツより、むしろ『普通』を演じているヤツの方が『吸血鬼』なのでは一一そうにらんでいる……。私がそのバケモノなら、目立たんよう、なおかつ、引っ込み過ぎないように、無難な位置をキープするだろう」

「警察だ、聞き込み調査をしている。君にも協力願いたい。何か異常な行動を起こす者に、心当たりはないだろうか? この付近で、大量の家畜が妙な殺され方をした。死骸は全て、血を抜かれていたのだ。そう、まるで一一吸血鬼にでも、襲われたかのような……」

「これでも、元は人間だったんだ。幼いころ、大きな事故にあってね。血を分けてくれた親友が……ヴァンパイアだった。彼の冷たい血を受け、私は一度、死んだ。その後、こうしてよみがえった。親には、私が死んだものだと思わせてる。生き返った子供なんて……きっと、気持ち悪いだろうから。こっそり荷物をまとめ、家を出た。最初は、親友の世話になってたんだけどね……『狩る者』に、滅ぼされた。私はなんとか逃げきり、夜の街をさまよった。何度も警官に目をつけられたものさ。家出だと思われたんだろうね。まぁ、間違いではないのだけど」

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