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お題  

「来週の授業内容だ。写せ」
 一斉に文字をノートに書き写す生徒。ローソクだけの薄暗い教室の中を行き来しながら、ピアニストのような細く白い指で杖をクルクルと回す。


 両手にチキンを掴み、十日間何も食べていない脱獄犯のような勢いで、不作法にかぶりつく。山と摘まれていく骨に、尊敬と呆れの視線を向けた。
「友よ。僕の記憶によると君は三時間前、かぼちゃパイかっこ六人分かっこ閉じを口にしていたように思うが、どうか?」


 緊張を隠しながら、箒の柄を握る。他の生徒も教師のそれに習った。笛の合図に勢いよく床を蹴り……ブラッジャーのような飛行で森へと消えた。
「いやぁ、初心者とは思えない、惚れ惚れする飛びっぷりだねぇ、セブルス」


「ああ、君とこうしてホグズミードを歩けるなんて!」
 セブルスの前を二つの笑顔が上下していく。くしゃくしゃとしたクセのある頭は、隣の赤毛の魔女の背中に手をやり、「三本の箒」へと消えた。


「監督生の大浴場は悪戯の道具を作成する場ではない! 出たまえ! さぁ、出て行きたまえ!」
 シリウスは端正な顔を歪め眉間にシワを寄せると、不機嫌な声を出す。そんな彼の様子にジェームズ達は床を叩いて「そっくりだ」と爆笑した。


 かつての学友たちは大量の菓子やバタービールを持参し、友人の新居に押し掛けた。その小さな姿を捕らえるや、もみくちゃになって奪い合う。
「そこ、ハリーの抱き方が変! 逆さまにしない! だー! 投げるなー!!」


 ぽとりと、いま摘まれたばかりの薬草を落とす。全身を強く強打されたような衝撃に耐えながら、マクゴナガルに告げられた言葉を反芻した。
「一一重傷……? 誰が……と、仰いましたか?」


 天井を見上げたまま胸を激しく上下させ、乱れた息を整える。けだるげにベッドに腰掛け漆黒の髪を掻き揚げると、目尻を嫌な汗が伝い落ちた。
一一落ち着け……落ち着け……アレはただの夢だ、現実ではない……現実では……。
「……くそ、なぜ今さら……!」


 冷たいバタービールを呷り、息を吐く。季節は初夏へと変わり始め、汗ばむ額を袖で拭った。ナベ底について熱弁する弟をうんざりと見ながら。
「きっとアイツの前世は魔法薬の教授か、ナベのフタか、おたまだぜ」


 階段を下りた所で、思わず目を見開いた。目の前に珍妙な固まりが広がっている。不安定に揺れる本の向こうで、頭がひょこひょこと動いた。
「一一あー・・・ハーマイ……」
「話し掛けないで!」


 ヴィーラが妖しく微笑むと、少年は髪と同じぐらい頬を赤く染め、夢見心地に近寄っていく。ハーマイオニ−の不機嫌な視線には気付かぬまま。
「もう、男ってこれだから!」


 小さな羽音に気付き、ベッドから起き上がって窓を開ける。暗闇に浮かび上がる白がまっすぐ飛んで来て、ハリーの胸で優しく抱き締められた。
「おかえり、ヘドウィグ!」


「ご覧の通り、我輩は現在、仕事中である。用件があるなら簡潔に願いたい」
 苛立たしげに動く、細い指。眉間のシワを一層深くして、山と摘まれた羊皮紙を手に取った。異常な長さのそれには、「ハーマイオニ−」とある。
一一たまにはケアレスミスなどの可愛げを見せたらどうだ。完璧すぎて気に食わん。


「ごめん!」
 どちらが先か、ペコリとお辞儀をして謝罪する。あまりに近い距離にいたせいで互いの額をぶつけあい、一瞬の沈黙の後、クスクス笑い出した。


 声が聞こえ、慌てて机の下へと飛び込んだ。それと同時に、破壊せんばかりの勢いで、ドアが勢いよく開け放たれる。大股で誰かが入ってきた。
「どこだ……今日こそ、許さんぞ……地下に閉じ込め……ムチ打ち……朝まで逆さ吊り……」


 洞窟で黒い大きな犬が空を見上げる。茶と白が仲良く並んで、布のかけられたカゴを運んで来た。中には羊皮紙と、香ばしいチキンの香り。
「今回はまた随分とぶ厚い手紙だな、ハリー」


 自分の選択の失敗を悔やみながら、親友の笑顔を思い浮かべた。鉄格子の向こうで陽炎のように揺らめく二つの黒も、今の彼には見えていない。
「『極限状態の時こそ、冷静に物事を判断しなければならない』……ああ、お前の言う通りだよ、ムーニー」


「おっと、危ない……」
 ぐらりと大きく揺れ、窓の外が次第に動き始める。古ぼけたトランクを網棚に乗せると酒の瓶を取り出し、一口含んだ。口の端から雫が落ちる。
一一この景色を見るとイヤでも思い出す……居心地の良すぎた、輝かしい学生時代を。


「……開けるぞ」
 刺激させないよう、静かに扉を開く。月光に包まれた簡素な部屋、窓の前で横たわる銀色の獣に、彼にとって最上級の猫なで声で名を呼んだ。


 窓の外に色がついても、自身の血にまみれた横たわる少年は動けないまま。理性を失う瞬間垣間見た、同級生の怯える瞳がちらついて離れない。
「今日ほど君に感謝した日はないよ……ジェームズ」


 不機嫌そうなノックの音。繊細な指から湯気の立つゴブレットを受け取り、にっこりと頭を下げれば、なぜか眉間のシワは一層深くなるばかり。
「何をヘラヘラしている! さっさと飲め!」


 低いうなり声を上げ、新たに現れた獲物に狂喜する。少年は鳶色の髪の下で瞳を恐怖に染め、一歩後ずさると、血に飢えた闇の生物と対峙した。
「一一人狼……病・・・」


 箱を差し出されるが受け取らず、鼻で笑って杖を振り、爆破させる。咳き込みながら苦笑した同僚は、彼の頭を指さした。そこには二つの三角。
「一緒にパーティーに参加してくれるなら、今すぐにでも消してあげるよ」

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