|
「この、小悪魔が……」
「コレって……下克上?」
「ソコからココまで、もらおうか」
「お前なら、俺と並んでもつりあう」
「階段が結構ある。迷子になるなよ」
「身も心も、あなたにささげます……」
「お前が、俺の孤独を消してくれた……」
「お前を飼いならすのも、悪くない……」
「俺から金をとったら……なにも残らない」
「……ソレはシェフだ。主のカオぐらい覚えておけ」
「ご……ごしゅ、じんっ……さまぁっ・・・一一!」
「このシャンパンは飲む物ではない。風呂に入れる」
「私はあなたにお仕えできる事を、私は誇りに思います」
「う、うわぁ・・・なんてゴージャス……貴族の香り……」
「あの人ワルぶってるけど……ホントは、いい人なんです」
「門から玄関まで700メートルある。そのリムジンに乗れ」
「そ、それで……ご主人様にご満足いただけるのなら・・・」
「お前は、時間と金をかけてオトす価値のある、オンナだ一一」
「お前の部屋はソコとココの二ケ所だ。気分によって使い分ければいい」
「一一貴様……俺のフリをしてメイドを監禁し、犯そうとしたそうだな……」
「いままでは、金さえあれば……なんでも思う通りにできた……。おもしろい女が来た一一」
「あなたは私の全てです。あなたが命令するなら、私はなんでもやりますよ。一一たとえ、人殺しでも……ね」
「さぁ、受け取れ。俺の部屋のカギだ。これからは自由に出入りを許可する。……合い鍵を渡した女は、お前が初めてだ」
「普通なら、クビにしてやる所だが……クローゼットになら、その男を住まわせてやってもいい。大人一人なら余裕で暮らせる広さだ」
「私はこのお屋敷に五十年、おつかえさせて頂いております……。分からない事や困った事などあれば、どうぞなんなりと、おっしゃって下さいませ」
「紹介しよう、専属の美容師だ。今日、お前が来ると言うから、パリから呼んだ。こっちは、カクテルパーティー用の料理人だ。夜にはマジシャンも来る。楽しみにするといい」
「これが全ての使用人だ。お前を含めて、全員で153人いる。紹介しても覚えられんだろうから、省略するがな。お前の最初の仕事は、皿洗いだ。キッチンに携わる者、1歩前に出ろ。彼から彼までの、13人のカオと名前を、コレから覚えていくように」
「アンタが、新しく雇われたっつー、メイド? ふーん……思ったよりイケてんじゃん。なに、俺の夜のお世話もしてくれるワケ? バーカ、なに照れてんだよ。ジョーダンだよ。俺は、この屋敷のシェフ。ココのご主人サマと、外見や声が似てるせいで、よく間違われんだ。普段は厨房か、控え室にいる。用があったら来な。ま、コレからよろしく頼むわ一一嬢ちゃん……」
「お前をあえて、なにかに例えるなら……花なら、バラ……バイオリンなら、ストラディ・バリウス……ワインなら、ロマネ・コンティ……宝石なら、希少で人気も高い、パライバトルマリン・・・そんな所だな……。宝石言葉は、希望……お前にも似合うんじゃないか……? なんなら今度の誕生日に、指輪に加工してくれてやろう……いま着ている服にも合う……。といっても一一お前が身につけるのなら、あの美しい輝きも、色あせて見えるだろうが・・・」
「いままで俺に群がる女は、金目当てのヤツらだけだった。両親は俺に、金と寝床を与えただけ。忙しく、顔をあわせる事すらめったにない。屋敷の者は、俺をただの『雇い主』としか見ない。かつては友と呼んでいた者もいたが……ある日、屋敷の金を持ち去り、逃亡した。そう……生きていてこれまで、ただの一度も、『愛情』などというものを感じた事はなかった・・・お前に、出会うまでは……。決して、逃しはしない……俺に惚れさせてやる……必ず・・・一一」
「今夜は、帰さん……」
「黙って俺についてこい」
「三十秒だけ時間をやろう」
「お車のご用意ができました」
「……もう、逃げられんぞ?」
「この屋敷は、お前専用の鳥かごだ」
「払える身体かどうか、見せて頂こう」
「俺がいない間、何か変わった事は?」
「どうだ。新しい環境には慣れてきたか?」
「俺といる時は、金の心配をする必要はない」
「忘れるな。お前を生かすも殺すも、俺次第だ」
「使用人をどうしようと、主の勝手だ……。そうだろう?」
「一一使用人のブンザイで俺に意見したヤツは、お前が初めてだ・・・」
「それはもういい、こっちに来い。お前には別の仕事をしてもらう……」
「この家では、俺が『黒』と言ったものは、白いものでも黒と答えねばならん」
「お前のような女を支配してみたい……心も、この白く美しい一一身体も……」
「命令に従えんというなら一一そのクビをはねてやるのが、親切というもの……」
「富、名声、地位……欲しいものは全て、奪い取った。あと足りないのは一一お前のみ」
「いつもしていただいてばかりでは申し訳ない……たまには俺が、『ご奉仕』してやろう……」
「主に命令とは、お前もなかなか偉くなったものだ。まぁ、一度かぎりなら、きいてやらんこともない。だがもちろん一一条件がある」
「さて、お前は仕事の企画書を捨てるという、大きなミスをした。うまくいけば数十億の金が動いていた、重大なプロジェクトをつぶした。会社や俺の信用はガタ落ちだ。この責任、どうとる?」
「……やっと帰ったか。ちっ、時間をとらせやがって。何が『殺人の重要参考人』だ。アレは完全に犯人あつかいだな。実際は殺していないのだろう? ならお前を信じよう。刑事と弁護士に知り合いがいる。まかせろ一一守ってやる」
「ほぉ……どんな命にも従う……と?」
「ベッドメイキングが整いました……」
「ご主人様、お荷物、お持ちしましょう」
「失礼します、お茶のご用意ができました」
「使用人を独占できるのは、主の特権だな」
「一一おかえりなさいませ……ご主人様……」
「ご・・・ご奉仕、させて……頂きます……」
「一人で食事をするのはつまらん……付き合え」
「逆らう気か? 言ってみろ、お前の主は誰だ」
「『さま』はいらん……名で呼べ……これは命令だ」
「い、いけません、ご主人様……そんなお戯れを……」
「仕えている者が家の主より遅く帰るとは、何事だ?」
「一一主が使用人に紅茶を出すのは、そんなに奇妙か?」
「お前の為なら、この屋敷の全財産を投げ捨てても、構わん……」
「このような場所では、屋敷の者たちに気付かれてしまいます……」
「お……お許し下さい……それだけは……それだけはどうしても……」
「主としてではなく・・・一人の男として意識して頂くのは可能だろうか?」
「今日からお前には、俺の身の回りの世話を命じる。常にそばへ控えている事」
「フン、この仕事は初めてか。なら俺に命令されるがままに、身体を動かしてみろ」
「ここは、使用人を罰する部屋だ。中に入った者は、翌日、必ず俺に対して従順になる……」
「眠れぬ夜がおありなら、ご主人様がお休みになられるまで、こうして手を繋いでおります……」
「へぇ、意外ー。使用人を雇うほどの大金持ちって、みんなもっと偉そうなんだと思ってました」
「完全な従順さを見せる奴隷より、お前のように反発する者を征服する方が、そそられると言うもの……」
「も一一申し訳ございません! ただいまお召し替えのご用意を一一ああ、その前にヤケドの応急処置を!」
「我が家には『メイド』というものは必要無いのだが……大体なんだ、その珍妙な格好は。頭につけてるソレは、役に立っているのか?」
「これからはどんなお言い付けにも背かず……ご主人様の許しなしに、勝手な行動をしないと誓います……どうか……お側において下さい……」
「イヤなら出ていって頂いても結構……お前のような出来損ないを雇う主など、どこにもおるまい……それに……お前には帰る所がないのだろう? 路頭に迷うか、俺のしもべとして生涯、仕えるかだ」
|
|
|
|