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羽ペンを置き、溜め息をこぼす。左手を右肩に乗せ右腕を回してコキコキ鳴らせば、じっと見つめる緑の瞳に気付く。彼は左足を二回叩いた。
「おいで」
「ウソなんてついてません。貴方の勘違いですよ、先生」
じろりと、目の前の緑の瞳を睨む。どんな挑発を仕掛けても、この少年はそ知らぬフリを演じ、首を振る。ちらちらと右に視線を向けながら。
一一それがお前の、ウソをつく時のクセだ。自身で気付いていないのは致命的だな?
細いなりに力もあり、身長も頭ふたつ分は違うだろうか。並んで歩けば足の長さの違いに、置いていかれる。闇色の声には、時折ゾクリとする。
「一一ジロジロ見るな。減点するぞ」
「好きです……先生」
まばたきも忘れて唖然となり、半歩後ろへ下がった。鯉のように口をぱくつかせ、かつての同級生と同じクセのある頭を見下ろしてローブを握る。
一一なんと・・・一体、何と言ったのだ、この子供は?
すっと背筋の伸びた、大きな黒い猫を思わせる、しなやかな動き。指の一つ一つまでが艶かしく踊り、目の前の無垢な少年を無意識に誘惑する。
「一一どうした。顔が赤いようだが?」
袖のボタンを外す。そこには、かつて自分が犯罪者だった事を証明する印。土気色の腕に禍々しく浮かび、口から蛇を吐き出した刻印・髑髏。
「……見ろ。我輩が人殺しの仲間である証拠だ。どうだ、コレでもまだ『好きだ』などと戯れ言が吐けるか?」
入って来た者を見て大広間は静まり返った。髪を結び知的な眼鏡をかける、表情だけはいつも通り不機嫌な、陰険教師の見事なドレスローブ姿。
「……明日の天気が心配だ。雨どころかナメクジが降るぜ」
「マクゴナガルのカミナリ付きでね」
「このような時間帯に何の用だというのだ」
開け放たれた窓から、白い影が舞い込んできた。部屋を旋回するヘドウィグ捕まえ、杖を掴んで警戒しがちに、足に括られた羊皮紙をほどく。
一一手紙に妙な魔法でも仕掛けてみろ。タダではおかんぞ、バカポッターめ。
「誰が同じテーブルで食事をしていいと言った? ペットごときが生意気な」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、床に置かれた皿へ顎をしゃくる。屈辱的な要求に逆らう事も出来ず、少年は顔を近付け、スープを舐めた。
硬く目を閉じるハリーの胸元を、長い指が淫らに滑る。喘ぎを必死で堪える様子を楽しみながら、意地悪い笑みで目を細め、唇を耳へと寄せた。
「さて、さて……次は、どうして欲しい……? ハッキリ言いたまえ……できぬなら、グリフィンドールから五十点減点する……」
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