学園ヘヴン





「出たな、年齢詐称」

「一一やってみろよ、哲也」

「ひ……ヒデ・・・頼む……もう、勘弁してくれ……」

「驚きました。中嶋さんも、やはり人間だったのですね」

「おい、啓太……お前だんだん、ヒデのヤツに似てきたぞ……」

「最初はリードできる側にまかせるべきだと思わないか、丹羽」

「なぁに言ってやがる。俺の方がうえに決まってンだろ、ヒデ!」

「……俺が恋人といるのに、他のヤツの事なんて考えるワケないだろう?」

「あ、郁くーん。ちょっと日曜日の『アレ』の事で、話があるんだけど一一」

「もう、王様ー。早く帰ってあげないと、中嶋さん寂しがって泣いちゃいますよ?」

「心配するな、ゆっくり寝ていろ。お前がいなくても、生徒会はいつもと全く変わらない」

「ヒデの涙目なんて、滅多に見れねぇ貴重品だからなぁ。タップリ堪能させてもらうぜ?」

「いちいちうるさい犬だ。お前のクチになにかを突っ込んで、黙らせてやりたいものだな」

「分かり……まし……た……ひ・・・一一ひで……あき……さ……・・・一一さま・・・っ!」

「安心して下さい。僕は誰かさんのように、人を調教して悦ぶような趣味なんてありませんから」

「ふふ……感じるか・・・? ちゃんと言わないと……この色っぽい、切なそうなカオ……描くぞ?」

「岩井さん……あ、じゃなくて……たくと、さん……・・・一一あっ……た、卓人さ……ん・・・一一」

「一一お前がウマすぎんだよ、このクソ野郎……おっし、もっかい勝負だ、ヒデ! 勝ち逃げは許さねぇぜ!」

「一一・・・な!? 副会長さんと七条を? ああ、まぁ……うーん・・・一一なんや……ごっつおもろそやなぁ……」

「あなたにプロテクトをかけさせて下さい。伊藤くんに不正アクセスするヨコシマな誰かさんは、僕がデリートします」

「へっ、さすがだな……気の強ぇこって。だが、ほどほどにしねぇと痛い目みるぜ、ヒデ? なら……コレならどうだ?」

「おや、繋いでいないんですか。それは残念です。ネット上でなら、どこまでも追い掛けてあげるのに。ねぇ、中嶋さん」

「いいか、啓太! アイツ一一ヒデにだけは、絶対! なにがあっても! 弱味にぎられるようなヘマすンじゃねぇぞ……!」

「ダメですよ、名前で呼んでは……。そんな事をされたら、僕は欲情してしまいます。一一でも……最中の時は、ぜひお願いします」

「普段はあんなにおっとりした、大人しい血統書つきの猫みたいな人なのに……ふたりきりになると、途端に銀狼になりますよね……」

「ランニングか。ふふ……頑張るんだな、啓太。最近の臣は、まるで飢えたオオカミだ。いまのうちに、しっかりと体力をつけておけ」

「クセになるようなキスをしてやるよ……その代わり、お前はもう……俺から離れられなくなるぞ・・・覚悟はできているんだろうな……?」

「ふぅん……首筋のばんそうこう、か・・・。俺に愛されているという証はお前にとって、隠さなければならないほど、恥ずかしいモノなのか……」

「……逃げるな、なにごとも経験だ。まさか『王様』とも呼ばれるような男が、このごにおよんで悪あがきの言い訳なんか……しないよなぁ? 哲ちゃん」

「三年が風呂に入る時間は、もっと早いんじゃなかったんですか? 中嶋さん……さては啓太と一緒に入りたいから、ワザと一年と同じ時間にあわせてますね?」

「お前も行くか? 裁判の傍聴に。犯罪と言っても、いろいろあるな。ささいなトラブルから、殺人まで。……証拠品に『血のついたナイフ』とか、出てくるぞ……」

「僕はあの人によく『犬』とか言われますけど……彼こそ、馬と鹿を足したような人ですからね。……あ、すいません。あの鬼畜を動物に例えること自体、動物虐待ですね」

「犬のお前でも、人間のように本を読む事があるのか。それは驚いたな。図書室から借りるには、まず『人間証明書』をお得意のハッキングで偽造しなければいけないんだろう? 大変だな、忠犬」

「……人は怯えると饒舌になると言うぞ? ああ、お前は犬だったな。震えているんじゃないのか、忠犬一一いや、たまには名で呼んでやろうか……・・・一一おみ……ほぉら、どうした……? いつもの臆病なポーカーフェイスが崩れたぞ……」

「誕生日を祝って欲しいんじゃない……ただ、君が俺のとなりで……笑ってさえいてくれれば・・・俺は、それだけで幸せになれる……嬉しいんだ・・・絵を描く事しか取り柄のない俺だけど……その・・・ずっと、そばにいて欲しい……これからも、ずっと・・・一一愛してる」

「大げさだ。極限まで手加減してやったんだ、痛いワケがあるか。それに蹴ったんじゃない、かかとを落としただけだ。さっきから呼んでいるのに、返事をしないお前が悪い、丹羽。今日は誕生日だろう。夕食をおごってやるから、一分で支度しろ。一分をすぎたら、お前が俺におごれ」

「心配するな。この俺が交渉したんだぞ、うまくいって当然だ。しかし、篠宮に面と向かって堂々とウソをついた時は、とても緊張した。なにせ俺は、真面目で正直で素直で純粋ないい子だからなぁ。一一こら、啓太、遠藤。目をそらすな。丹羽、涙を浮かべて机を叩きながら笑うな。机が壊れる」

「おだてとか、ご機嫌とりじゃねぇ。ヒデは本当、掛け値なしにアタマがいいし、俺と並ぶほど腕もたつ。多少……いや、かなり、性格に問題はありまくるが……お前ほど、使える相棒はいねぇって思ってる。だから、いまの『いい関係』を崩したくねぇんだ。コレからも、最高のパートナーのままでいてくれよ」

「うん、こういう事はやっぱ七条だよね。じゃあ、あとで会ったら話しておくから。一応、郁くんにも聞いてはみるけど……断られるんじゃないかなぁ……みんなで百物語ってタイプじゃないし。あ、七条を呼ぶって事は、中嶋さんには声かけないつもり? でも、丹羽会長は呼ぶんだろう? うーん・・・一一ま、いいか。どうにかなるでしょう。僕はとりあえず、ハニーさえ来てくれればそれでいいから。あ、そうそう、ハニーの『お友達くん』は誘わなくていいからね」

「一一おかえり。遅かったな。なんだ、そのいまにも泣きだしそうなマヌケづらは。ああ、普段からそんな顔だったな。どうだ? 初めてかくれんぼの鬼を経験した感想は。コレでお前も、少しは分かったろう。お前が逃げるたび、俺がどれだけ苦労してさがしまわっているか。なぁ、哲ちゃん? ほら、早く席につけ。今日はこの書類だ。コレ全部が終わるまで、逃がさないからな。……おい、なにをボーっと突っ立っている。早く席に・・・一一なっ……・・・に、丹羽……? なんだ、いきなり抱き着いたりして……おかしなヤツだな。・・・一一おい……お前、まさか・・・本当に、泣いてるのか……? 俺がこの学園から出ていったとでも思ったのか? それとも、俺がいなくて……そんなに寂しかったのか……?」


「王様の耳はロバの耳ー」

「フッ……かわいいな、啓太は」

「ジャマをするな、七条。啓太は俺のモノだ」

「おい、ヒデ……しっかりしろ、ヒデ! 英明!」

「中嶋、今日も丹羽はかくれんぼか? あの男のおもりも大変だな」

「西園寺、シツケは最初が肝心だぞ。犬も……そうでないモノも、な」

「悪い人じゃないんですけどね。あ、もちろん。いまのは丹羽会長の方ですよ」

「一一のぞきは楽しいか? 女王様の忠犬。用があるなら、さっさと済ませてもらおうか」

「偉いですね。丹羽会長がいなくても、ひとりでちゃんとお留守番ができるんですからね。はい、いい子、いい子」

「相変わらず、うさん臭い『笑みのようなもの』を浮かべているな。会計は今日もヒマなのか。うらやましい事だ」

「わざとらしく中指だけ立ててメガネを直すのは、やめたほうがいいですよ。意外と子供っぽいコトするんですね」

「啓太は『イヤか?』と聞かれると、イヤとは言えなくなるからな。だが、お前や中嶋ならともかく、岩井や篠宮がソレを狙って言ったという事はあるまい」

「味付けに文句は多いけど……でも、残さないで食べてくれるんだよな。意地悪なトコが目立つけど……なんだかんだいってもやっぱり、優しいんだよなぁ……」

「その……啓太は結構、くすぐったがりだから……絵筆で身体をなぞったら、気持ちいいんじゃないかと思ったんだ……。ダメ、か? やっぱり、挿れた方がいいか?」

「俺が仮に刑事になったとしてー。お前が弁護士じゃなくて検事になれば、一緒にいられるんだけどなぁ。検事と刑事って、ワリと仲いいモンらしいぜ。知ってたか?」

「一一少し、休憩にしよう。ただじっとしているだけでも、疲れるだろう? あともう少しで、啓太の絵……完成するから。一一啓太、こっちに来て……耳、貸して……ふふ・・・一一淫乱」

「啓太、あまり臣に近寄るな。長年の友人を『謎の行方不明者』にしたくない。お前は、私だけのモノだ。コレからはたとえ臣であっても、理由なく二人きりになる事は許さない。覚えておけ」

「一一丹羽ならいないぞ。……いや、違う。今日は珍しく、ちゃんと動いている。いつもこうだと、俺もありがたいんだがな。ああ、待て啓太。ヒマなら、コレを『郁ちゃん』の所に持って行け。丹羽が忘れていった書類だ」

「外見など所詮、親のDNAだろう。私の努力で得た物ではない。そんな所を『いい』と言われても、とりたてて嬉しくもない。それに、私は男だ。それなのに平然と『美人』などという単語を使われると、いっそ腹立たしささえ覚えてくる」

「ああ、どうしようトノサマ〜・・・あのクスリで、ふたりの人格が入れ代わっちゃったみたいなんだ……と、とにかく! 落ち込んでる場合じゃない。元に戻すクスリ、頑張って作らなきゃ! い・・・一週間ぐらいあればできるか……なぁ……」

「来週は誕生日だそうだな。お前にピッタリの首輪でもくれてやろうか、忠犬。もちろん、リードもつけてやるよ。ケーキは甘さ控えめの犬用か? レストランは『ペット可』の所しか、入れないんだろうな。ちなみにここは『ペット不可』だ。ほら、ハウス」

「本来、犬は手なずけるものだろう。その犬に餌付けされ、手なずけられたというのか、啓太? この俺という『恋人』がいながら、よりによってあの犬の所に通っているというのは……どういう事なんだ? 会計が忙しいから……というのは免罪符にならないぞ」

「い、岩井さんっ! なななななんて絵を描いたんですかっ! こ、こんなのダメですっ! どこかにしまって下さい! 誰も来ないうちに、早くっ! だあぁぁぁっ、お、王様!? だ、だめ! 絶対にダメですーっ! 岩井さん、逃げてーっ! 早く逃げてーっ!」

「啓太、今日はこのまま……外泊、しないか? 今日は啓太と、ゆっくりシたいから……。ああ、そうか……外泊届け、出していなかったな……。大丈夫、いい方法がある。明日、ふたりで篠宮に怒られよう。反論しないでうなずいていれば、だいたい30分で終わるから……」

「ああ、伊藤くん。いま郁はいませんが、どうぞ。とてもおいしいんですよ、この・・・一一ああ、すいません。クラッカーを見たら、どこぞの悪人がアタマに浮かんでしまい、気分が悪くなりました。せっかく君と楽しい時間をすごしているのに、どこまで迷惑な人なんでしょうね」

「コレは『偶然』カフェで聞いて気に入り、今日『なんとなく』立ち寄った店で、『たまたま』みつけたから、『気まぐれ』で購入しただけです。別にあなたが持っているからとか、ましてや、あなたなんかと同じCDを持ちたいから一一なんて思ったわけでは『微塵も』ありません。自意識過剰もほどほどになさって下さい」

「下の名前……ですか? えっと・・・英明……さん、ですよね……? え、え、それって、その……どういう……あの・・・もしかして……な、名前で呼んで欲しいってコト……ですか? でも、そんな事したら……お、俺たちの仲、バレちゃいますよ……!? ウワサなんてたてられたら、中嶋さ……ひ、ひで……あき……さんに、イヤな思いさせちゃうかも……」

「お前の肌は、なめらかで心地いいな……この舌触りがたまらない・・・おや、失礼……手触りだったな。ふふ……コレだけ肌を重ねても、初めてのような反応をする……しかし、ひとたび夢中になれば、まるで娼婦のようだ……恥じらいながらも快楽にあらがえず、本能に溺れ、身をゆだねて、堕としてくれとねだる……。私をこんなにも夢中にさせて……本当に、困った子だ……啓太・・・」

「……ククッ・・・一一残念だったな、丹羽。ひとくち飲んで、すぐに分かった。お前がコレに、一服もったという事は。だからタオルでクチを拭くフリをして、ソコに吐き出していたんだよ。量が減らないと、不審がるからな。そしてスキをみて、お前のカップとすり変えた。お前はソレに気付かず・・・一一ほぉら、中味はからっぽだ。お前が持ってきたんだから……自分の身体がどうなるか、分かるだろう? さぁ、お楽しみだ……我慢大会といこうか・・・一一哲ちゃん?」

「どうしたぁ、ヒデ。そのカッコ、やけにソソるじゃねぇか。不覚にも、ちっとグラグラきちまったぜ。一一なぁんてな。ははっ、ビックリしたか? ジョーダンだって、ジョーダン。今日は確かに、暑いもんなぁ。でも、篠宮なら『心頭滅却すれば……』とかなんとか言うんだろうなぁ。あー、アイス食いてぇー。泳ぎてぇー。なぁ、ふたりで泳ぎに行かないか? 海でも、プールでも、池でも。寮の風呂に水風呂があればいいのになぁー。どっからかホースちょろまかしてきて、水浴びでもすっか? サルくんあたりに電話して、持って来させるかなぁ」

「ほな、ここらでいっちょゲームでもしましょ。えー、オレに、啓太に、由紀彦、遠藤、丹羽会長、寮長さん、副会長さん……みんなで七人やからオレが抜けて、ふたりずつのチーム戦。背中に書かれた文字の当てっこや。罰ゲームは酒……は、冗談やて冗談っ! あはは、寮長さんー、そないにらまんといて下さいよー。ほなら、負けチームは勝利チームにチューや。ええですやんー、チューは罰ゲームの基本ですって。そのかわり、くちびるでも手の甲でも、どこでもオッケーや。チーム分けはくじ引きでええですか? 寮長さん、クジの制作と配布、お願いします。その間にオレは、問題考えときますんで」

「おーい、ヒデ……なんだ、寝てンのか・・・? 辞書、ココに置いとくからな……ったく、寝るならメガネぐらい外せよ……・・・一一こういう時だけは……さすがのコイツも、ちっとはかわいいな……むしろ、エロいっつーか一一なぁに考えてんだか……ヒデが俺なんか相手にするワケねぇじゃねぇか。あー、クソ……啓太が『中嶋さんの事が好きなんですね』なんて妙なコト言いやがるから、こんなヤツ……変に……意識して・・・一一ったあぁぁぁぁっ!? お、お、おまっ、いつ起きてっ……!? まさかいまの全部、聞いて……!? ひひひ卑怯だぞ、ヒデ! さ、さっき俺が言ったのは忘れろ! いますぐ忘れろ! 綺麗さっぱり忘れろ! じゃ、俺は帰る! なっ……離せ、俺は帰る! 帰るったら、帰るんだーっ! はーなーせーっ! 俺はむぐっ……むー! ふー! ふむむー! ふーむーむーっ!」


「ニワ付き一戸建て」

「すいません、中嶋さま・・・一一あっ」

「はいはい。泣き虫、哲ちゃん。顔を拭け」

「一一っぐ・・・そう、思うなら、抜けっ……!」

「一一そのかわり・・・お前は俺のモノだ一一哲也」

「理性が追い付かなくても、身体は正直なものだぞ?」

「かーずき……早く起きないと、キスしちゃうぞ・・・」

「一一ねぇ、伊藤くん。僕はいま、君を口説いているんですよ」

「……っの野郎っ・・・俺の中嶋さんに、なにするんだよ……!」

「ヒデ……お前ってヤツは、ほんっ一一・・・と、汚ねぇよ・・・」

「お前の知能レベルは犬だと思っていたが……訂正しよう。ニワトリだ」

「お前の好きな所……? そうだな一一尻か。……なんだ、その顔は?」

「……なんのコトだ? お前を助けたのは俺じゃない。どけ、犬。ジャマだ」

「一一来たか、啓太。臣からの伝言だ。『ソファの下』。……ふふ、頑張れよ」

「……冷たい態度でイジワルしてから優しくするのって、反則だと思うんです・・・」

「お前もなあ……アイツより年上なんだから、もうちっと……な、なんだよ……そんなににらむなよ」

「購買に行くのか? 俺もなんだ。デッサン用の食パンを買おうと思って。よかったら、一緒に行かないか?」

「一一あまりおイタが過ぎるようなら、少し噛みついてあげましょうか。動物虐待の代償は大きいですよ、中嶋さん……?」

「俺の足も縛っておかなかったのは、お前にとって最大の失敗だ。むしろ、手が使えない程度のハンデがあってちょうどいいだろう?」

「大丈夫ですよ。あの中嶋さんにとりつく、根性のあるウイルスなんていやしません。むしろ病原菌の方から、嫌がって逃げていきますよ」

「ホワイトデーは三倍返しが基本だそうだな。バレンタインの夜は四回ださせてやったから……今夜を楽しみにしていろ。濃厚な夜にしてやるよ」

「はーい、元気かなぁー? みんなのアイドル、くまちゃんさまだぞぉーっ。今日のー、伊藤くんのラッキーアイテムはぁ、合い鍵ー! さー、いますぐ愛する人にあげてみようーっ!」

「……どうした? 男の手でイかせられるのは絶対に嫌だと言ったのは、お前だろう。だから、嫌でもイけなくなるようにしてやったんじゃないか。嬉しいだろう? 俺の優しさに感謝しろよ」

「伊藤くん。ココでひとつ、クイズをしましょう。僕はいま、ベッドに寝転がる君に欲情しています。では問題。このあと僕は、君になにをするでしょう? 正解できたら、カギをかけてあげますよ。ふふっ」

「・・・一一なぁ、和希。ものすごく怖い事、言っていいか? あのさ・・・一一さっき、中嶋さんがふたりいるのを見たんだ……しかも、そのうちのひとりは、女装してた……。な、なんだったんだろう、アレは……」

「……丹羽、どうしたんだ? 生徒会室に行かないでいいのか? ここに居たいと言うなら、俺は構わないが……。・・・・・・。……丹羽。もし嫌でなければ、お前を描かせてくれないか? 一番、ラクなポーズでいいから……」

「……中嶋さん、甘い匂いがしますよ。誰なんでしょうね。あなたに致命的な勘違いの幻想を抱き、愛を贈ってしまったかわいそうな方は。どうせ、開封もせずに捨てるんでしょう? せめて相手の方に、誠意をもったお返事ぐらいするんですね」

「だー、くっそ……だから早く帰ろうっつったのによー。パンツまでぐっしょりだぜ。おー、さみさみ……とっとと風呂はいって、あったまってくっか。お前も入るだろ? 用意して一緒に行こうぜ。あー、郁ちゃん入ってねぇかなー。ふふふーん」

「こ、コレは別に……今日はバレンタインだし、日頃の感謝を込めて、みんなあげたりもらったりしているだけで……えっと、コレは海野先生からで、コレは和希から……コレは成瀬さんで、コレは俊介、コレはしち……ま、まぁ、あの……みんな、普段お世話になっている人から……です・・・」

「……ふぅん、さくらんぼ……か。滝、また賭けか? ふぅ……まぁいい。いつもの事だ、見逃してやるさ。ま、せいぜい篠宮には見つかるなよ。一一ところで、丹羽。せっかくだ、競争しないか? 勝った方が1週間、相手のいう事をなんでもきく。どうだ? 負けるのが怖いか、臆病者の哲ちゃん?」

「俺を喘がせて『征服欲』を満たせたかったらしいが……ワザとツッコませてやったあと、いやらしく腰を動かしてやったら、堪えきれなくなって俺の中に吐き出した。そのあとは……グッタリしてるアイツに反撃してやったよ……それはもう、朝までたっぷりとな……。俺を組みしこうと考えたのが、そもそもの間違いだ……ククッ・・・」

「啓太、手を・・・一一俺の部屋の合い鍵だ。コレからは好きな時に、遊びに来てくれ……俺がいなくても、中で本でも読んで待っていて欲しい……本、と言っても、絵に関するものしかないが……。なんなら、そのまま泊まっていってくれても……その……嬉しい、し……逆に、俺が泊まりに行っても、その……・・・一一啓太……今夜、いいか・・・?」

「誰だ……? ああ、中嶋か。どうした、仕事の話か? 丹羽なら来ていないぞ。臣もいまはいない。恐らく図書室だろう。・・・一緒に茶を? そうだな……丹羽さえいなければ、私は別に構わない。すぐに臣も帰ってくると思うが、それでも飲んで行くと言うのか? ふふ……どういうかぜの吹き回しだ、中嶋? なにを企んでいる。一一まぁ、いい。座れ。ちょうど退屈だった、付き合ってやる。お前なら紅茶より、コーヒーの方がいいだろう? 珍しいゲストのために、私が直々にいれてやろう。……中嶋、『女王様』はよせ……。ああ、そのソファは一一臣お気に入りの指定席だ……座るか? ふふ・・・」

「おー、啓太。お前、えートコに来たなぁ。お前もどや、『1口・学食チケット1枚』やで。コレやコレ、さくらんぼや。あんな、オレ今日、海野ちゃんの手伝いしたんやけど、その礼で大量にさくらんぼをもろたんや。そんでな、みんなにさくらんぼの柄をクチん中入れてもろて、『誰が、何分で結べるか』を賭けるんや。つまり、誰が一番キスがうまいか勝負、っちゅーこっちゃな。どや、おもろそやろ? お前にだけこっそり教えたるけど……いまんトコ、1番人気は由紀彦で3分、2番人気は七条、大穴は女王様や。せやけど女王様の場合、キスが上手い下手より『頼んでもやってくれなそう』っちゅうんが主な理由やな。で、お前、誰に賭ける?」

「クッ……いいさ、好きなだけ妬け。俺だけブザマに嫉妬するなんて、フェアじゃないだろう。一一ニブいお前は、気付いてないんだろうな……お前が遠藤や成瀬たちに囲まれて、バカ面さらして笑ってる時、俺がお前に、どんな思いでいるか。本当ならいますぐ、誰もいない所にお前をさらって、監禁でもなんでもしてやりたいぐらいなんだ。例えば、外国とかな。英語が苦手なお前がそんな所に行けば、イヤでも俺から離れられないだろう? 俺の言葉しか理解できない、俺とだけ会話をする、俺がいないと不安になる、俺の顔を見ると安心する、つねに俺のそばにいるようになる……。そう一一お前の中にいるヤツは、俺だけでいいんだよ。いちいち言わせるな……この、バカ」

「いかにも『優等生』って顔をして……スゴいコト言ったり、し……シたり……する人だもんなぁ……『身体に覚えさせる』っていう言葉があるけど、あの人の場合、本当に『身体に覚えさせる』し……普通ありえないよなぁ……アタマのいい人って、もしかしてどこかがネジくれてるものなのかなぁ……あの『動く性犯罪』みたいなありえない下半身で、本当に弁護士になるのかなぁ……悪役ヅラの弁護士……『無罪だと言うなら、俺が必ず証明してやる。お前は黙って俺の言う通りにしていろ。ただし、お前の証言にウソがあったら……分かっているな?』とか言いながら、ニヤニヤと楽しそうに、被告人や検事を追いつめていく様子が目に浮かぶ……法廷についていこうものなら、傍聴席とかでスゴい事してきそうだなぁ……こんなとんでもない恋人が、いま安らかに俺のベッドで熟睡中・・・一一じゅ……熟睡……・・・一一な……なんで肩、震わせて・・・まさ……か……」


「……お前の考えている事は、全部カオに出てるんだよ」

「一一ケーキでも食べたのか? キスが甘ったるくて、気分が悪い」

「西園寺より、俺につくせ。アイツより、ずっと悦ばせてやるぞ?」

「なっ……中嶋さ……どう……したんですか、そのケガ・・・だ、誰に……!?」

「う……あっ……・・・なんっ……でもない……足が、しびれた……だけだ・・・」

「一一どうしてもと言うなら……キスだけで俺をイかせてみろ。それができたら、教えてやってもいいぞ。啓太」

「いままで、中嶋さんて……その……お、怒らないで下さいね? あの……だ、誰かに・・・後ろを許した事、あるんですか!?」

「これはこれは、『郁ちゃんのペット』くん。本日もご機嫌ナナメなようで、なによりだ。ご主人さまはどうした? ついに愛想をつかされたか?」

「中嶋さんの初恋って、いつなんだろう。どんな人なんだろう。いままで、どれだけの人と付き合ってきたんだろう。相手は、お・・・女の人……なのかな」

「……ねぇ、郁。一一もし、僕が、悪魔でも……友達で、いてくれますか・・・? ふふっ、ビックリしましたか? コレは、とある有名なゲームのセリフなんですよ」

「和希って……普段は人当たりのいい、明るくて楽しいヤツだけど……アレで意外と、かなり・・・一一エロかったんだな……・・・一一え・・・う、うわあぁぁぁあああっ!? かかかかかかかかかかかずきっ!? お、おまっ……いつから、そこっ……!?」

「一一っか……やろぉ……! ンだよ、お前……いつもみてぇに、さがしに……来いよ……俺、すげぇ心配して……ホントに、心配……してっ・・・一一っく……っ……くそっ……るせぇっ! 泣いてねぇ! お前なんかどこにでも消えちまえ! この、馬鹿メガネっ……!」

「……分かった。もういい。一一『もういい』と言ったんだ。今度は聞こえたか? お前は俺の渡す書類に、目を通さなくていい。ただ渡された書類に、黙ってサインしろ。会長印は、俺が代わりに押してやる。名前を書くぐらいならできるだろう? めんどうな事務処理がなくなって嬉しいか、哲ちゃん」

「……なんだ、啓太か……脅かすなよ。夜中のニ時に突然ノックなんてするから、てっきり『ソレ系』かと思ったよ……。どうした? そんなトコ突っ立ってないで、入れよ。寝れないのか? 別に迷惑なんかじゃないさ、俺も起きていたしね。それに、啓太ならいつだって歓迎するよ。ほら、お茶。冷たいぞー」

「コレはね、大嫌いなモノが大好きになってしまう、そんな錯覚を起こすクスリなんだ。この学園に、猫がちょっぴり苦手なコがいてね。そのコに飲んでもらって、トノサマを好きになってくれればいいなー、って思って作ったんだ。よかったら七条くんにも、少し分けてあげようか? 中嶋くんと仲良しになれるかもしれないよ」

「いらっしゃい、中嶋さん。ちょうどよかった。実はさっきケーキを頂いたので、一緒に半分こして食べませんか? ほら、クリーム、アイス、いちご、バナナ、チョコレート。シロップもタップリでおいしそうでしょう? はい、クチを開けて下さい。一一ちゃんと食べれたら、丹羽会長の居場所を教えてあげますよ……ふふっ」

「成瀬さんって『プレイボーイ』って言われてるけど……俺から見ると、成瀬さんより、中嶋さんの方がはるかに浮気しそうな感じに思えるよ……いろいろ遊んでそうだし……男にも女にも不自由してなさそうだし……はぁ・・・俺の他にも、恋人っているのかな……俺の事、ただ『性欲処理に都合のいいヤツ』としか見てなかったら……どうしよう……」

「あ、あの……ごめんね、中嶋くん……さっきは言えなかったんだけど……成瀬くんが飲んじゃった、アレね……いわゆる『惚れ薬』ってヤツなんだ……まだ試作品なんだけどね。それで、その・・・一一ご、ごめんね、中嶋くん! あの……が、頑張ってね……その……くれぐれも……再起不能にはさせない程度に、抑えてあげて……そのうち、効果はきれるから……そ、それじゃ!」

「おーい、ヒデ〜・・・仕事なんか明日にして、早く帰ろうぜー。今日はこのあと、台風が来るって言ってたじゃねぇか。寮に戻れなくなっちまうよ……あー、いよいよ雨が降って来やがった……まだ夕方なのに、もう真っ暗じゃねぇか。なー、ひーでー・・・帰ろうぜー。なーなーなー、ひーでーってばよー。ひーでー。ひでーひでーひでー。いや、誰も『ひでぇ』なんて言ってねぇって」

「寒いなら、手でもつなぐか? どうした。俺がこんな事を言うのはおかしいか? お前が言ったんだろう。『たまには恋人らしい事がしたい』と。こういう事なんじゃないのか? それとも、コレから喫茶店にでも行って、ひとつのコップからニ本のストローで飲むか? おそろいの服でも着て、腕を組んで歩くか? まぁ、制服という時点で、全員とおそろいだが。……あの、七条ともな」

「一一中嶋さんはカッコいいし、きっと、すごくモテるんでしょうね……いままでも、たくさんの人と付き合ってきたんじゃないか、って思います……でも……どうか……俺が『最後の人』で、あって下さい……コレからも怒らせちゃったり、呆れさせたりする事、いっぱいあるかもしれません……でも、やっぱり……俺……おれ・・・あなたじゃないとダメ、です……中嶋さんしか見えないんです……」

「……本当はイヤじゃないのに・・・嫌がるフリをして、あなたのキスを受ける……自分にダメだと言い聞かせても、身体は僕を裏切り、あなたをねだってしまう……服を脱がされ、かわりに屈辱と快感を着せられて……精神すらも犯されて……月明かりの中、欲望に満ちたナイフのような眼差しで、心まで貫かれる……。あなたの望む事は、決して言ってやらない……それが僕にできる、せめてもの……必死の抵抗一一」

「あ、西園寺さん、おかえりなさい。いまちょうど、西園寺さんの事で、七条さんと盛り上がってたんです。ね、七条さん。俺の知らない西園寺さんを知る事ができて、すっごく楽しかったです。あ、そうだ。今度は、七条さんの事も知りたいな。西園寺さん、七条さんって、どんな感じの人ですか? どんな……っていうのも、いまさらって感じですけど……なにか、西園寺さんしか知らないような事があったら、教えて下さいよ」

「いよぉ、ひっであっきちゃーん。元気してっかなぁ? 気味悪いだぁ? るっせぇっつーの。へっへっへ、聞きてぇか? 聞きてぇよなぁー、えへへへへへへ。いやぁ、実はな、さっき啓太や遠藤と一緒に、あの郁ちゃんと風呂に入ったんだよ。背中は流させてくれなかったけどな。生徒会の仕事で風呂が遅くなっちまったが、そのおかげでいいモン見れたぜ。ほんのり火照った頬が色っぽかったなぁ。いやぁ、今夜はいい夢が見られそうだ。ふふふーん、ふふーん……なっ、なんだよ!? なに怒ってンだよ、ヒデ!?」

「俺もちっと欲しいなぁ……七条みてぇに、『絶対の忠誠』みてぇなの誓ってくれるヤツ。なーんかおもしろそうじゃねぇか、主従関係ってよ。あ、分かってると思うけど……この事、ぜってぇ中嶋には言うなよ……。でもよー、こういう事話してると、たいていそばにいたりするんだよなぁ、アイツ。よく、気付かねぇうちに俺の背後に立っててよ・・・一一そうそう! そうやって腕くんで、人をこう、小馬鹿に見下したような顔してよ。まぁ、俺の方がデカいから、見下すっつーのもアレだが。とりあえず、笑いながら怒るのはやめろって感じだよな。ったく、あの鬼畜メガネめ・・・一一出たっ……!」


「一度でいいから……ヒデが余裕なくして、感じまくってる顔……見てみてぇなぁ。なんて……ンなコト言ったら、蹴られるな。いっそ、俺の誕生日プレゼントにねだってみるか……? それとも、ベル製薬の妙なクスリでも……」

「卒業しちまったらそれっきりってのも、つまんないよなぁ……なあ、ヒデ。いっそ一緒に暮らさないか? いいじゃねぇか。いままでだって、そうたいして変わんねぇだろ。……ばっ、ばかやろっ……! べっ、別に、好きとか、寂しいとかっ……なに言ってんだ、お前! す、好きってのは、お前っ……・・・ああ、くそっ! もう知らねぇ! 勝手にしろ!」

「一一まさか、本気になった……とか、言うつもりじゃないだろうな? 丹羽。ククッ……俺にハマると、苦労するぞ? 俺から『愛している』と言わせてみろ。そうすれば、お前の勝ち……俺はお前のモノだ。一一ま、適当に夢中にさせてくれよ。頑張って『難攻不落の城』を落としてみろ。楽しみにしているぞ、哲ちゃん。じゃあ、話はコレで済んだんだろう。今日の分の書類だ。終わるまで返さないからな」

「一一俺に用なのか? 別に、モデルでもなんでもない。一般の高校生だ一一・・・フッ……逆ナンか? 言っておくが、俺は手が早いぞ。それに、こんな趣味がある。たとえば・・・・・・・・・・・・一一なんだ、急用か。それは残念だ。ああ、じゃあな。……啓太、すまない。待たせたな。うっとうしくからまれてな。追っ払ってきたんだ。ククッ……さっきのあのカオ、お前にも見せたかった……。さて、行くか。こっちだ、ついてこい」

「あの人が不快に感じる事……ですか。それはきっと……誰かとなにかで勝負して、完膚なきまでに叩きのめされ、踏みつぶされる事……なんじゃないでしょうか。しかもその相手がこの僕となると……余計に、ね。あの人が、よりにもよって、この、僕に、屈服させられるだなんて……それはそれは、この世の中で、最も……屈辱的なコト一一なんでしょうね・・・一一ふふ……フフフ・・・一一あ、失礼。あとは、甘い匂いなんかも嫌いみたいですね。僕より丹羽会長の方が、まだ詳しいんじゃないですか? あの人に『弱点』みたいなものがあれば、楽しいんですけどね。よくオカルトを否定していますけど、そうするのは、実は『そういったモノが苦手だから、否定していないと怖い』とか、ね……ふふっ」

「ああ、そういえば今日はハロウィンだったか。あんなくだらんイベントに参加するほど、生徒会はヒマではない。そもそも俺の所に来た時点で、菓子は諦めろ。トリック・オア・トリート一一『イタズラか、菓子か』か。俺は菓子をくれてやらなかったのだから、お前は俺にイタズラを仕掛けなければいけないんだろう? ああ……そうか。イタズラを仕掛けたいから、絶対に菓子を用意していない、俺の所へきたんだな? 珍しく積極的じゃないか。たまには、お前の方からされてみるのも悪くない。楽しみだな、どんなイタズラをしてくれるんだ? 今夜を楽しみにしている。もし、なにもして来なかったら・・・一一その時は……こんな昼間から、とても声に出しては言えないような事を、シてやるよ……」

「せっかくだから、おもしろくさせたいものだ。女王様にムチうって頂くとか、赤いハイヒールで踏み付けさせたり、な。あとは地面に這いつくばらせて、『お許し下さい英明さま、コレからは生徒会の仕事をマジメにやります』とか言わせてみるか。一週間、俺のしもべとしてこき使うのも悪くない。あの偉そうな丹羽が、俺を『ご主人さま』と呼び、媚びへつらう……ふぅん・・・おもしろいな。アイツの苦虫をかみつぶしたような顔が、目に浮かぶよ。『こんの陰険メガネ・・・一週間たったら、覚えとけよ……』なんて、な。丹羽は負けず嫌いで、俺と対立するような事があるとすぐカッとなり、ムキに反論するようなヤツだからな。ただ敬語を使うだけでも、さぞかし苦痛だろうさ。クッ……コレにするか……」

「一一ひどいザマだな、丹羽。いま、ロープをほどく、じっとしてろ。一一なんでココが分かったか、だと? フ……だてに毎日、お前とかくれんぼをしていたワケじゃないさ。だが、俺もまさかお前ほどのヤツが、あんなヤツに監禁されているとは思わなかったからな。書類の山は昨日に限って綺麗に片付けたし、お前の姿を見かけなくても、いつものサボりだと思って、気にしていなかったんだ。助けるのが遅くなって悪かったな。ケガはないのか? アタマ……? ああ、コレか。この鉄パイプで殴られたのか? ならあとで、それ相応のお返しをしてやらないと、な。しかし、鉄パイプ程度でよかったな、丹羽。……お前にとっては、『アレ』に舐められた方が重傷だろう? にらむな。それだけ元気なら大丈夫だな。ああ、哲ちゃんは殺したって死なないか。ほら、立てるか?」

「いや、知り合いに聞いた。その男は当時・中学生で、確か二年だったと思う。なんでも、出会ったほとんどの女と、性行為をしているのではないか……というようなヤツだそうだ。その年齢で、経験人数は六十を超えているらしい。その知り合いの女も、『あと一回あったら、ヤっていた』と言われたそうだ。男が中ニだからな、相手の年齢も当然、若い。中学生が一番多く、次が高校生。小学生を相手にした事もあるそうだ。一番若くて、小三だったか? しかも、そのうちの十数人に、はらませたらしい。何人かはおろし、何人かは産み、何人かは、自殺未遂をしたらしい。そいつが誰とシようと勝手だが、女を相手にするなら避妊ぐらいしろ。全く、サカリのついたケダモノのようなヤツだ。……なにか言いたそうな顔だな。言っておくが、その男は俺じゃないぞ。そいつより俺の方が、経験人数は多い。男も女も、な」

「ベルリバティスクール三年、丹羽哲也・生徒会長。わたくしたちの鬼ごっこは、どうやら、この学園の名物にもなっている模様です。わたくし、おかげさまで『運動不足』とは無縁の毎日を『強制的』にすごさせて頂いております。この件について丹羽哲也・生徒会長から、なにかご意見をお聞かせ願えますか? なぜわたくしは、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、平日だけでなく休みのはずの日曜まで、丹羽哲也・生徒会長を『学園の名物』とも呼ばれるほどおさがし申しあげ、そして、わたくしに気付いてさらに逃走をはかろうとする丹羽哲也・生徒会長を、全力ダッシュで追い掛けまわさなければならないのでしょう? 首輪とリードでもおつけし、この机につないで差し上げましょうか? それとも、隠密に発信器でもおつけしましょうか? いっそわたくしの部屋に、三日ほど監禁でもしますか? なぁ、ベルリバティスクール三年、丹羽哲也・生徒会長さま?」

「……どういうおつもりですか。僕を部屋のカドに追いつめて……なにか楽しいですか? では、気が済んだでしょう。どいて下さい。すこぶるジャマです。・・・まだ、なにか用でも? なんですか、その目は? まさか、僕をココで・・・一一強姦一一でも、するつもりですか?『征服欲』でも満たせたいんですか? あいにく、僕を征服できるのは、郁だけです。ふぅ・・・全く……悪ふざけがお好きだというあなたの趣味の悪さは、知っているつもりでしたが……少々、おイタが過ぎますよ。恐らく僕の『怯える顔』でも見たかったのでしょうが……ご期待に添えられず、まことに残念です。……髪にさわらないで下さい。あなたにそんな気は『全く』起こりませんから。あなただって、そうでしょう? それとも、僕に欲情しているとでも? さぁ、ソコをどいて下さい。僕はコレから、図書室に行くんです……か、ら……・・・なん……ですか……顔を近付けないで下さい……あなたなんかと、き、キス……なんて、そんな事……まっぴらですから、ね……」


「けぇーえ、たっ。あーそぼっ」

「心配するな。ちゃんとイかせてやる」

「俺に無許可でフェロモンをまき散らすな」

「髪、むすんで下さい……くすぐったい・・・」

「……そんなに、俺に会いたかったのか・・・?」

「あの中嶋さんでも……眠ってると、かわいい……」

「もっと離れろ、忠犬。保健所送りにされたいのか?」

「一一ンなの……ヤだ……は、早く……・・・っ……」

「……俺を敵にまわすのは、あまり得策だとは思えないな」

「な……中嶋さん、ごめん……なさい……ゆ、許して……」

「まったく……お前はどうして、こんなに感じやすいんだ?」

「……そんなに驚くな……俺だって、情事の声ぐらい出す・・・」

「気にするな。友達だって、キスぐらいするって。ねぇ、王様?」

「あ、ダメだよぉ、トノサマー。もう、いたずらっこなんだからー」

「おい……アイツだったら、俺はここにいないって言ってくれ……!」

「ハニー、ハニー! ああ、やっと見つけたハニー、さがしたよハニー」

「おや、いらしていたのですね。全く気がつきませんでしたよ、中嶋さん」

「先生にはお世話になりましたからね。今日は俺に、お返しさせて下さいよ」

「いいじゃないか……友達・・・一一だろ……? な、啓太……けーえたっ」

「……なるほど、鬼畜メガネ、か。それは一一誰の事だ……? 女王様の忠犬」

「はーい、王様だーれだ・・・一一って……王様が『王様』ってありかよー!?」

「一一ったく……すぐイっちまうクセに、ナマイキな挑発してンじゃねぇよ……」

「どうやって『お願い』をするかは、もう教えてあるだろう。ほら、言ってみろよ、哲ちゃん」

「ヌードは、もう勘弁して下さい……この前のがあまりにも、は……恥ずかしすぎたので……」

「つまり、どうして欲しいんですか……伊藤くん? はっきり教えてくれないと、僕……分かりませんよ」

「いよぉ、郁ちゃーん。今日もあいかわらず、美人だねぇ。うん、目の保養、目の保養・・・一一げぇっ!」

「コレが、俺からのプレゼントだ……お前の一番好きなモノだろう、啓太……ありがたく受け取れよ・・・一一」

「もしもし? ああ、俺だ。予定より少し長引きそうだが、必ず行く。ベッドでいい子に待ってろ。……いまさら照れるな。じゃあな」

「啓太……もっとちから、抜いて・・・疲れたら言ってくれれば、休憩にするから……それは結構キツいと思いから、もっと、楽な姿勢で・・・」

「もしまた倒れたりしたら、その時は24時間ずーっと岩井さんのそばにいて、監視しますからね。ソレが嫌だったら、ちゃんと食べて下さい。はい、あーん」

「欲情しているのか? フン・・・構わない、もっと乱れろ……。その濡れた視線で、俺を誘ってみろ……。ああ、いいな……その表情・・・一一感じるよ……」

「『最後まで』。コレじゃ、分からない……? じゃあね・・・『キス以上』のコト。コレでも分からないなら……あとは実戦で、教えるしかないな・・・一一」

「俺なんか、どうせ……アタマと性格のよさ、豊富な話題、そして、夜のテクニック程度しか取り柄のない男なんだ。一一なぜ笑う。またお仕置きされたいのか?」

「そんな、腹黒だなんて。ちょっぴり傷付いてしまいましたよ。でも、どこかの鬼畜メガネに比べれば、数億倍マシでしょう? おや、怯えていますね。どうかしましたか?」

「よー、お前ら今日もここかー。あいかわらず、仲ええなぁ。となりジャマすんでー。よっこいせ、っと。ふー、やれやれ。と……年寄りくさいってなんや! 失礼なヤツやな!」

「なんつったって、俺とコイツは大親友だからな! なぁ、ヒデ!……な!? お前、『知り合い』ってなんだよ! 俺たちの熱ーい友情は、そんな薄っぺらいモンだったのか!?」

「ンだよ、人を悪人みてぇに……わ、わあったよ! ダブルでにらむな! へーへー、戻りますよぉーっだ。ったく、ヒデの野郎……毎度毎度、俺をフルネーム、しかも役職つきで呼びやがって……性格のネジまがったヤツだぜ」

「一一あなたは、僕の恋人なんですよね? ではなぜ……今日は食堂で、邪悪で、鬼畜で、冷血漢で、とんでもない悪人の中嶋さんと、楽しそうにお話していたのですか? よろしければ、言い訳をじっくりとお伺いしたいものですね」

「中嶋、さんの……声は……媚薬、です・・・それなのに……耳元でボソボソ、ナイショ話でも、する……ように……な、名前を……呼ばないで……下さい……こ、こんなコト、されたら……俺、それだけで……どうにか……なりそう……です・・・一一」

「お前の身体には飽きた・・・一一と言ったら、どうする? 馬鹿、冗談だ。全く、お前は相変わらず、すぐに人の言った事を信じるな? だから……冗談だと言っただろう。俺はただ、お前のその顔が見たかっただけだ。だいたい毎日、お前が泣いて悦ぶまで抱いているだろう一一夜だけでなく、昼も……な。普段からあれだけ愛してやっているのに、まだ不安なのか。それとも、まだ足りないのか。それならいままでの倍、愛してやるよ。……ほぉら・・・ものほしそうな顔だ……そうやって淫乱な顔で、俺を誘う……。抱かれたいんだろ……だったら『お願い』してみろ……シてやるよ、何度でも……」

「ここに、生徒会長という立場でありながら生徒会の仕事をほっぽりだし、毎日毎日こりもせずにこの広い校内を俺から逃げ回っている、昼寝、魚釣り、ひばりちゃん熱唱が趣味で、図体がでかく、やたら豪快な気質で『王様』とうアダナを持つ、能天気な男が来なかったか? 明日の会議に必要な書類は、生徒会長の確認印が必要となるわけだが、ソレがたまりにたまって、机を占領している。とても邪魔だ。コレは副会長の俺では処理できない。早々に復帰して頂きたいのだが、このはた迷惑で無責任な生徒会長を、どこかで見かけなかったか? どうなんだ、教えてくれ。伊藤のうしろで頭を抱えてうずくまり、無茶なかくれんぼをしている、ソコの丹羽哲也・生徒会長?」


「ほら、俺を『ご主人さま』と呼んでひざまずけ、忠犬」

「僕は、伊藤くんとのスキンシップが大好きなんですよ」

「欲しいのは、コレだけか? まだ、足りないんだろう?」

「……伊藤くん? 僕にウソをつこうとしても、ムダですよ」

「キスのやり方は、教えてやっただろう……やってみろ・・・」

「……中嶋さんのせいで、最近すっかり遅刻の常習犯ですよ・・・」

「それじゃ……俺の身体も洗ってもらおうか? お前の、身体で……」

「横になれ、啓太……私もお前のを舐めてやる……。その方が、フェアだろう?」

「よく頑張ったな。これで課題プリントは終わりだ。さて、啓太。次はなにをしようか?」

「……日本人であっても、日本語が通じるとは限りませんよ・・・誰とは、言いませんけどね」

「あー・・・一一ヒデ。生徒会の仕事については、あとでじっくり話そう。……逃げるぞ、啓太っ!」

「……ダメですよ、伊藤くん・・・図書室では、静かに……ね……そう、静かに、静かに・・・一一」

「俺、そんなモノ、じゃ……なく……てっ……・・・な……中嶋さん……が、欲し……いっ・・・一一あっ……」

「ただでさえ、ホラーものはダメなのに……七条さんの声と口調で言われると、十倍は怖く感じるんですけど……」

「お前の言葉も、真実かどうかは疑わしいな。なにせ……元・演劇部だろう? フ……冗談だ。困らせて悪かったな」

「とぉーのっ、さまっ。よっ、元気かー? 悪いけど、どこか他に行ってくれよ。ソコで寝られると、王様が生徒会室に入れないんだよ」

「はい、ただいま戻りました。すいません、伊藤くん。すっかり待たせてしまいましたね。……少しは『寂しかった』って、思ってくれますか?」

「お前のソレは、世間一般で『笑顔』と呼ぶのか。それは知らなかったな。俺はてっきり、『筋肉を笑みの形に歪ませている』だけだと思ったが」

「あ、あの……七条さん……? 背中に・・・悪魔の羽としっぽが見えるんですが……き、気のせい……かなー・・・なんて……あ、あは、あはははは……」

「中嶋さんに背中を押されて、部屋にはいると……連行される犯人の気分になるのは、なんでだろう……。コレから取り調べでも始まる……みたいな・・・」

「はいはい。全く、僕の恋人はちょっぴりワガママですね。郁のコト言えませんよ。でも、伊藤くんのそんなところも、とてもかわいらしくて好きなんですけど」

「……丹羽。その馴れ馴れしい手を離さないと、海野先生の『トノサマ』をつれてくるぞ……? 王様とトノサマで、いいコンビができそうじゃないか。なぁ、臣」

「伊藤くん。僕が背中を洗ってあげますから、後ろを向いて下さい。大丈夫、洗うだけで、なにもしない予定ですから。まぁ、予定はあくまで予定であり、決定ではないのですけど」

「こう言うと、怖がられてしまうかもしれませんが・・・一一僕はいつも、伊藤くんに『飢えて』いるんです……。意味、分かりますか? もし分からないのなら、喜んでお教えしますよ。一一行動で、ね」

「な……中嶋さん! どーしても謝らないつもりなら、も、もう、あなたとは……し・・・しま……せん……から……ね・・・ななななな、なんですか、なんですか、なんですか、笑いながらにじり寄らないで下さいよっ」

「じゃあ、罰ゲームは・・・啓太の全身にホクロがいくつあるか、数えさせてもらおうっかなぁー。もちろん、ハダカで。いろーんなポーズをしてもらって……身体の隅々、奥ふかーくまで……調べてみたいなぁー。いいだろ? 友達だもんな」

「臣、逆だ。私が彼氏で、啓太は彼女だ。私がいつも、啓太の身体を隅々まで、愛している。現在、あの子の弱い所を研究中だ。コレは、なかなかおもしろいぞ。ベッドの中の啓太は、私好みのいい声をだしてくれる。あの酔っているような目を見ると、鳥肌がたちそうだ」

「よー、啓太。うまそうなケーキだな。……中嶋には言うなよ。あいつがお前にソレやった時、『クジで当たったから』っつったろ? ホントはな、中嶋のヤツが自分で作ったんだぜ。俺に味見させてな。ったく、誕生日のケーキぐれぇフツーにやりゃいいのに、なーに照れてンだか・・・」

「なぁ、和希。生徒会は王様と中嶋さん、会計部は西園寺さんと七条さんで、それぞれふたりずつしか、いないじゃないか。西園寺さんが風邪とかひいて仕事ができない時、生徒会や会計部に急ぎの用があったら、どうするんだろうな? 王様は当然のように、サボってどこかに逃げてるだろうし……あとは中嶋さんと、七条さんだけになっちゃうし……」

「悪人なら、中嶋さんの方がはるかに上ですよ。ただ、あの人の場合『悪人のよう』ではなく、本当に『悪人』なのですが。一一ついでに言うと、顔の作りも悪人、性格も悪人、声も、髪型も、ノックの音も、足音も悪人、思考回路は……もはや外道、と言う所でしょうか。凄いですね。あそこまで『外道』という言葉がピッタリ合う人を、僕はいままで、見た事がありません」

「このコーヒー・・・丹羽や啓太がいれたものじゃないな。……七条だろう? 見ろ。カップの底に、砂糖の地層ができている……ご丁寧に、角砂糖を二個も埋めて。この書類もそうだ。わざとらしい、小さな文字。よほど俺の視力をさげたいらしい。フン……まるで子供のいたずらだな・・・やってくれる、あの忠犬め……。そっちが、その気なら……俺にも考えがある・・・一一」

「それはそれは……あの中嶋さんが病気でふせっているとは、ね。だから珍しく、丹羽会長がまじめに仕事をしているんですね。そういえば昨日、廊下で中嶋さんとすれ違った時、ロクに嫌味も言わず通り過ぎていきました。いつもの、人を見下すような悪人顔がくずれていたように見えたのは、気のせいではなかったみたいですね。珍しいものを拝見できました。おかげでしばらく、楽しい気分でいられそうですよ」

「そろそろ、生徒会長としての自覚と責任に目覚めて頂きたいものだな、哲ちゃん。見てみろ哲ちゃん。ココにある書類、フロッピー、CDは全部お前の仕事だ、哲ちゃん。今日中に終わらせてくれよ、哲ちゃん。さすがの俺も、クリスマスぐらいはのんびりすごしたいからな、哲ちゃん。お前だって寮のパーティーには参加したいだろう、哲ちゃん。集団で騒ぐのが好きだからな、哲ちゃんは。どうした、哲ちゃん。手が止まってるぞ、哲ちゃん。……その目はなんだ、哲ちゃん。なにか言いたい事でもあるのか、哲ちゃん。だいたい、こんな年末まで生徒会の仕事が残ってしまったのは、誰のせいか言ってみろ、哲ちゃん。それとも、俺が『哲ちゃん』と呼んでいるのが気に入らないのか、哲ちゃん。フルネームで呼ぶなと言ったのはお前だろう、哲ちゃん。だから名前で呼んでやってるんじゃないか、哲ちゃん。ありがたく思えよ、てっ・ちゃ・ん・?」


「どうした、啓太……まだ、キスだけだぞ・・・」

「大丈夫だよ……理事長室なんか、めったに人はこないから……」

「おい、西園寺。飼い犬にはきちんと首輪とリードをつけて、繋いでおけ」

「啓太、今日はハロウィンだぞ。お菓子くれないと、イタズラしちゃうぞ」

「……あなたがソレを言うんですか、中嶋さん・・・一一い、いえ。なんでも」

「俺は動いていない。いやらしいお前が、自分からむさぼっているんだろう。相変わらず、淫乱なヤツだ」

「嬉しいよ、ハニー! 僕のあげたシャンプー、使ってくれてるんだね。……ああ、いい匂いがする……」

「笑っていろ、と言っただろう……ベッドのうえ以外で、私に泣き顔を見せるのは許さない……啓太・・・」

「今日は夜まで生徒会の仕事と、丹羽の監視で忙しい。遠藤にでも遊んでもらえ。……だが、妙な気は起こすなよ・・・」

「コンタクトには、しないで欲しい……です。中嶋さん、メガネ似合ってるし……あ、でも、取った……とき、の……その・・・顔も……す、好き……」

「せっかく君と恋人同士になったのに、なぜ僕が郁の話ばかりするか、分かりますか? それはね・・・一一君にちょっぴり、ヤキモチをやいて欲しかったからです……機嫌は、直りましたか? 伊藤くん」

「あのぉ、中嶋さん? 啓太に妙なコト言わないでくれませんか? まったく……最近のあなたが、成瀬さんに見えてきましたよ。中嶋さんまで『ハニー!』とか言って、啓太に抱きついたりしないで下さいよね」

「ふぅん……そうか。啓太は、俺に放っておかれて寂しかったから、すねてるのか? 俺に会いたくて、寂しかったのか? 本当は……そばにいてくれるなら、俺以外の誰でもよかったんじゃないのか? そういえば……転校初日から、お前は遠藤になついていたし、丹羽とも仲がいいじゃないか……」

「伊藤、どうする。このまま外泊するか? い、いや……確かに、外泊届けは書いていないし、寮長みずから寮則をやぶり無断外泊なんて、とんでもない事なんだが……その・・・お前のため……なら・・・一度だけ、なら……。コレからは、遠藤の無断外泊……あまりうるさく言えなくなってしまうな……」

「それじゃ……啓太? もし怖いのなら、そう言って構わないからね……。その時はできるだけ……やさしく、やさしく、君が怖くないようにするから。それでもダメなら……ちょっぴり残念だけど、今夜は、諦めるから。いいんだよ、やっと僕のハニーが心を開いてくれたんだから。強制はしない。でも、一緒に眠るのだけは許してね」

「……滝、この本が取りたいのか? ほら。珍しいな……お前と、図書室で会うなんて。俺は……風景の写真集を借りにきたんだ。俺の好きな写真家が、先日、個展をひらいたんだけど……その時に展示していた写真を、本にしてね。今日、図書室に入るはずなんだ。滝は・・・一一数学と物理を借りるのか。・・・・・・。一一いや、なんでもない……。また七条に教えてもらうのか? 頑張れよ。届かない所にある本は、そこの踏み台で取ればいい。それじゃ……俺は、行くから」

「すいません。僕はとても強いんですよ。独占欲と、嫉妬心が。……特に、君の意識の向いている先が、あの中嶋さんだと分かると……ソレが無限に増大するんです。君は無意識なんでしょうけど……ソレが余計に、タチが悪いですね。僕をこんな気分にさせて、困るのは君なんですよ? 今夜たっぷりと、ソレを教えてあげますからね。なにをするかは……ナイショ、です。楽しみにしていて下さい。それでは、僕は丹羽会長をさがしてきます。生徒会と相談があるので。……あ、伊藤くん? 逃げちゃ、ダメですからね?」

「おー、啓太、啓太、啓太、ちょっと来い……アイツ、いねぇよな? ほれ、中嶋だよ、中嶋。ちくしょう、あの陰険メガネめ! いやぁ、ちっとな……俺と七条とで、アイツがどれだけ陰険かって話で盛り上がっちまってよ……そんで、いいコト思いついたんだ。どうだ、お前も一枚かまねぇか? あのな……アイツにイタズラを仕掛けんだよ、俺らで。……だーかーらー、生徒会副会長・中嶋英明に、イタズラを、仕掛けんの。俺と、七条と、お前で。分かったか? なんでって……おもしろそうだからに決まってンじゃねぇか。他にノってきそうなヤツ、いねぇか? 郁ちゃん『茶番にしては悪くない』って笑ってくれたけど、ノッてくれぇねしよ。遠藤とかサルとかどうだ。お前、誘ってみろよ。あと成瀬なら、ぜってぇお前の味方するはずだ。あ、篠宮や岩井には話すなよ。あのふたりが、イタズラに参加するとも思えねぇしな。もちろん、海野もだ……ほれ、『アレ』がいるだろ……。んじゃ、俺はちょっくらメシ食ってくっからよ。へへっ、ハラが減っては戦はできぬ、ってな。後で七条と一緒に、お前の部屋に行くから、作戦会議はそん時にな。じゃ、ちゃんと待ってろよ!」


「ふぅん……俺のせいか? なら、責任をとらないといけないな」

「生きた『放送禁止用語』さん、少し黙っててもらえませんか?」

「俺が本気を出したら、救急車は必要ない。呼ぶのは、葬儀屋だ」

「……丹羽。俺と三年も一緒にいて、こういう言葉を覚えなかったのか。『学習能力』という言葉を」

「冷笑でも嘲笑でもねぇ、ヒデの純粋な笑顔……・・・一一ほ……ホラーか? 新種のきもだめしか?」

「ほぉら……ご褒美が欲しいんだろう……? いつものようにねだってみろ……どうすればいいか・・・分かるな?」

「俺の手足をベッドに縛って、媚薬でも飲ませて……下克上を狙ってみるか、啓太? 忘れられない夜にしてくれよ……」

「うわ……しししししし七条さん、なんか笑ってるし……いや、いつも笑ってるけど……なんていうか、その・・・こ、怖い……」

「どうした、誕生日を祝ってくれるんだろう? なら、俺の望む通りにしろ。まずは、そうだな……俺の服を、脱がせて頂こうか」

「普段の俺だと、かなわないから……病気で弱っている時を……狙って、襲うのか……? お前は、相変わらず……いやらしいな……」

「悪いが……生徒会はお前の相手をしているほど、ヒマではない。話し相手が欲しいなら、さっさと女王様のもとへ帰ったらどうだ、忠犬」

「伊藤くん。中嶋さんに『借り』を作るのは、自殺行為ですよ。なにせ『あの』中嶋さんなんですからね。世界崩壊でもやりかねない人ですよ、『あの』中嶋さんは」

「……分かった。今日だけは特別だ。一度だけなら、言ってやるよ。お前が望む、俺に言って欲しい言葉を。さぁ、なんだ? 気の変わらないうちに、さっさと言え」

「こんな時間にごめんね。ハニーの誕生日に最初に会話をする人は、僕であって欲しかったから。まだ、眠くはないよね? これから君の為に、お祝いさせてくれないかな」

「中嶋さん・・・さ、さては、浮気してるんじゃ……!? ううっ、どうしよう……こういう時はやっぱり『しばらく実家に帰らせて頂きます』かな……でも、浮気と決まったワケじゃないし……」

「フン、いつものすました腹黒顔からは、想像がつかない姿だな? 今後、俺には絶対服従し、『どうしても助けて下さい』と泣いてアタマを下げるなら……考えてやってもいいんだぞ。女王様の忠犬」

「逃げるんですか? 中嶋さん。もっとも、それが正しい判断かもしれませんね。僕に勝てるワケないんですから。鬼畜で高飛車なあなたは、必ず負ける勝負なんて、初めから避けたいでしょうからね」

「あ、伊藤くん、ちょうどよかった。いま、忙しいですか? 実はこの書類なんですが……生徒会長『じゃない』方の人へ、渡してもらいたいんです。お願いできますか? あまり……あそこへは近づきたくないので」

「こら……お前の顔が、見えないだろう・・・もっと俺に、顔を近付けろ……もっと……もっと、近くに……もっと……もっとだ・・・・・・一一ほら、メガネを返せ……まったく……。イタズラ好きのお前には、少し『お仕置き』が必要か……?」

「そういえば……中嶋の前では、臣のその、うさんくさい笑顔もくずれるな。そう考えると、臣の本音の顔をわずかにでも引き出せるアイツに、少しばかり妬けるような気もする・・・一一ふふ……笑顔でにらむな、臣。ひまつぶしもかねた、軽い冗談だ」

「起きたか、啓太……すまない、ほったらかしにしてしまって……つい、描くのに夢中になってしまった。続きはまた明日だ。……あ、啓太・・・まだ、なにもしてないから、安心してくれ。一一あ、いや……『まだ』というか、なんと言うか、だから、その・・・す、すまない……」

「ほう……『なんでも』するんだな? なら・・・覚悟はできているんだろうな、啓太……それと・・・一一哲ちゃん? 俺はいままで、『アレ』を使って脅そうとした事はなかったが……お前には少しキツいお仕置きが、必要かもしれないな……。いまならまだ、海野先生も起きているだろう・・・なぁ……コレからなにが起こるか、楽しみだろう・・・哲ちゃん? そして一一啓太。お前は俺の部屋にいろ。……いいな?」

「へぇ、珍しい・・・王様と中嶋さん、ケンカしてるんだ……まさか原因は、また『キス』なのか? しかも、今度は本当に中嶋さんが『した』とかなー。でもあの人のコトだから、キス以上のコトだってしそうだよなぁ。いつも王様と、生徒会室でふたりきりなんだろ。カギをかけて、ついセマっちゃって……なーんてなっ。それで王様に避けられて・・・え、なんだよ啓太……後ろって・・・・・・一一な・・・なかぢま……さんっ……」

「すまない……つい、夢中になってしまった。これからは、気をつけるよ。……啓太? 身体……大丈夫か? 固い床のうえで……その・・・す、すまない。しかも途中から、あまりの気持ちよさに、余裕なんて吹き飛んでしまったから……少し、強引になってしまった・・・一一俺たちは赤と緑のようだな・・・一緒になると、自分を強く主張し……完全に交ざりあう事なく、互いが互いを高めあって・・・一一あ……す、すまない……啓太、真っ赤だ……。しかし、参ったな……俺がこれから美術室にくるたび、思いだしてしまうかもしれない……あ、その……す、すまない……だから、その、そんなに照れないでくれ……なんだか、こっちまで……その、だから・・・すまない。一一啓太がいるせいなのか……今回は運がよかったな。普段なら、篠宮がよく、この部室に顔をだしに来るだろう。今日は、来なかった。見られたら、どうなっただろうな・・・一一あ……ああ、その……す、すまない・・・俺は……啓太に謝ってばかりだな……」


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