SIREN





「……覚えていてくれたのか・・・」

「しばらくの間、君と手をつながせてくれ」

「……ホントに、まわりには誰もいないんだな……?」

「きっ……着替えぐらい、私ひとりでもできる……!」

「不思議だ……君の微笑んでいる姿が、見える気がする」

「まぁ……コレでも一応、『恋愛小説家』だからね……」

「君の言葉は、繊細な詩のようだ。荒んだ心も洗われる」

「お……おろしてくれ! 足は悪くない、自分で歩ける!」

「な、なんだ……さっきから、なにをしているんだ……?」

「どこに行ったんだ……私のそばにいてくれ、阿部さん……」

「ああ、ふわふわする……ツカサを撫でているみたいだ……」

「一一もし無事に戻れたら、君に聞いて欲しいコトがある……」

「その……できれば、終わるまで見ないでいて欲しいのだが……」

「姿やカオは見えなくても、君の香りが、私を優しく包んでくれる」

「離れないでくれ……君にいなくなられたら、私は生きていけない」

「大声で『アフタヌーン王子』と呼ぶのは、やめてくれないか……」

「あの……なんだかすぐ近くで、カオを見られているような気がするのだが……」

「君を主人公に『恋愛小説』を書いたら、きっと、素晴らしいモノができそうな気がする」

「なぜそこまで、親切にしてくれるんだ? 出会ってから、まだ数時間しかたっていないのに……」

「フッ……私を口説こうというのか? おもしろい人だ。君、恋愛小説家になれるんじゃないか?」

「潮の香りがする……海が近いんだな。私は目が見えない代わりに、他の感覚は敏感なんだ。特に、耳が」

「すまないな、しばらく付き合ってくれ。……い、いや、そういう意味の『付き合う』ではないんだが……」

「私の目が見えないのは、幼少時代に受けた、強いストレス。精神的なモノなんだそうだ。過去になにがあったかは、もう覚えていないが」


「幻視でのぞきをしないで下さい」

「しょ……正気に戻って下さいーっ!」

「……屍人って、痛覚あると思いますか?」

「さぁ、牧野さん。もっと、私のそばへ……」

「この医者『危険物』につき、とり扱い注意」

「ほれ。見えないんだろ、手ぇつないでやるよ」

「へっ……てめぇの身体ぐらい、てめぇで護るさ」

「あ……あなたがウワサの、へた一一求導師さま」

「え、えっと……じゃあ・・・一一司郎、さん……」

「あのアフタヌーン王子……どこ行ったんだよ……」

「だ、ダメです……神に使える者が、そんな背徳的な・・・一一」

「ああ、血まみれだ……もはや『白』衣とは呼べないな。やれやれ」

「……私の兄が、お世話になったそうですね。ありがとうございます」

「そんな……尋問みたいに聞かないで下さい……わ、私は・・・一一」

「綺麗にハモりましたねー。双子だから、やっぱり気が合うのかな?」

「もしや悩みの原因は……八尾さん? ケンカでもしましたか。珍しい」

「いいんですよ。逆の立場ならきっと、あなたと同じ事をしたでしょう」

「地獄の業火に焼かれながら・・・それでも……天国に憧れる、か一一」

「うわー・・・先生たち、スーツ着てるー! わー、わー、カッコイイー!」

「さぁ、私を信頼して、言う通りになさって下さい。怖い事はしませんから」

「み、宮田さん……いや、怖い……やめて……ちゅ・・・注射はイヤですーっ!」

「な……なにを考えているんですか! ココは、教会ですよ!? 神への冒涜行為です!」

「逃げて隠れるなんて、私の性に合いません。屍人の山を作る方が楽しいじゃないですか」

「困りましたね、診察時間は終了しているんですよ。……仕方ないな。今夜は特別ですよ」

「こいつらの身体から流れ出るのは、血じゃない。哀れむ必要なんてありませんよ。こんな、化け物」

「あなたを一一いえ、なんでもありません……。さぁ、行きましょう。ココにはもう、なにもない・・・」

「お……おかしいです……そんな……だって、あ、あなたは……平気なんですか? 同じ顔、なのに・・・」

「一一安心しない方がいいですよ。ドコに敵がいるか分かりませんから。ま……せいぜい、寝首をかかれないように」

「あなたは、いつまでも・・・俺の憧れる『求導師さま』でいて下さい。いつまでも、その純粋さを大切になさって下さい・・・一一兄、さん」

「はぁ……誕生日、ですか・・・。確かに、好きそうですよね。牧野さんは(←ここ四倍角)。私は結構です。彼だけ祝ってあげて下さい。それでは」

「ええと・・・一一私と同じカオで、黒髪短髪白衣でハンマー持ってサドっぽくて気付くと背後で薄く笑ってそうな屍人より怖いうわあぁぁぁっ!?」

「ほら……慣れていないのに、無理をするから。怪我を見せて下さい。……大げさだな。このぐらい、舐めとけば治りますよ・・・一一はい、治療おしまい。お大事に」

「フッ……医者の言う事は、ちゃんと聞いておいた方がいいですよ? まぁ・・・傷口から雑菌が入り腐敗しても、困るのは私ではありませんから……構いませんけど、ね」

「う……ううっ・・・い……いる? いる? いる……? うー・・・一一うわっ、いたあぁーっ! でたあぁっ! みっ、みっ……みーっ! 宮田さあーっん! 屍人のみなさん大名行列うひゃあぁぁぁぁぁーっ!?」

「……油断しました。まさに、医者の不養生。ご心配なく……ただの、風邪です。自分でクスリを調合して、安静にしていますよ。しばらくは、私の部屋へ近づかないで下さい。感染でもされたら、私の仕事が増えますから」


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